愛されたいのはお互い様で…。
はぁ、伊住銀士榔って言った。なんて渋い名前なんだろう。でも雰囲気が名前と合ってるかも。
名は体を表すなんて言うけど、そんな事を言われたら、私なんか、ゆかりですから。
…誰が付けたんだろう。聞いて見た事もなかったけど。
紫という字がゆかりと読むとは知らなかったから、ゆかりって呼ばれる分には全く嫌だとか思った事も無い。普通には食べるゆかりは連想される事が少ないから。
次は足の型取りとかするのかな。オーダーだから、行かなければ何も進まないって事だけど。
会えば会うほど不思議な空気を纏った人だ。
その纏う空気が妖しげで、慌てるように帰って来たけど。
自分よりは年上だと思うけど、いつまで経っても年齢不詳、みたいな雰囲気を持っている人だ。そして突然、男の色気を感じさせる…。これは受け取る側の感覚がそうさせてるのかも知れないけど。醸し出すオーラみたいなモノ…まるで不老不死みたいな感じ。……妖怪?
そうなると、あそこは全てが謎に包まれた、やっぱりおとぎの世界って感じにぴったりのところだ。今日居たお客様も伊住さんの魅力にすっかり引き寄せられてたようだったし。
何も食べないって事はない。一緒にミルクティーも飲んだし、前はアップルパイだって食べてたし。霞を食べてるって事でもなさそう。…神様とは違うのよ…。浮世離れした感じ?
ワインレッドか…。それも濃いワインレッド。いい色だし私も好きな色。私もその色がいいと思っていたから、不思議と一緒で、でも、同じ事を思っていたとは何故か言えなかった。
内面を少しでも晒す事、知られる事が、何だか怖い気がしたから。それが何故だか解らないけど。だから…言わなかった。
おとぎって言葉。それがおとぎ話なら、子供に聞かせる昔話。
だけど、おとぎだけなら、何だかちょっと大人な様子を意味する言葉のようだ。
話し相手をするという意味もあるが、添い寝をするなんて意味もある。高貴な人の、だけど。
初めて会った時、伊住さんは言った。私がおとぎになりましょう、と。聞いても全くぴんと来なかった。ただ言葉が足りないのかと思った。
だけど…言葉の意味を知って、どこか勝手に警戒している。
伊住さん相手に迂闊に無防備では居られないのかも知れないと思ったからだ。
危険かも知れないけど、何故か惹かれてしまうという感じだ。