愛されたいのはお互い様で…。


『Ginzirou』という名は知ったものの、連絡先は知らない。だから、実際に行かなければ何も進める事も出来ないままだ。

…んー、今は正直、何もかも気がすすまない。はぁ、どうしたものかな。気持ちのスランプだ。絶不調…。はぁ。

伊住さんはとても雰囲気のある人で…、それが何だか、近づき過ぎてはいけないような警告とも思えていた…。
靴を買う、という事に関しては、あのお店に限らなくても手段はいくらでもある。よその店舗で買ってもいい、通販だって出来る。オーダーメイドしたいなら、沢山軒数は無くても他にもお店はあると思う。それが近くにあるかどうかは解らないけど、探して見ればいい事だ。

伊住さんの持つ不思議な魅力というものが、お店に人を呼んでいる事は間違いないと思う。…だからこそだ。
セールスをされた訳では無い。親切に声を掛けられた事が結果、あの店のオーダーメイドの靴に惹かれる事になったんだ。それはこっちの勝手な感情だと思っている。

レインシューズを貸してあげる、と言った事、それは、ただ言葉通りのモノで、深い意味は無いのかも知れないけど、人の心理というモノを上手くついて誘導出来るなら、結果としては、私はいい鴨だったのかも知れない。
店を知るきっかけを作られたのだから。
美容室にカリスマと言われるオーナーが居る事、しかも、イケメン…。そういった部分に引き付けられて通ってしまう女性がいるのも確か…。客商売とはそういう面も持ったモノだ。対面で仕事をする以上、魅力に惹かれるのは当たり前だ…。
素敵よりも更に、素敵過ぎる、という事が、あるか無いか解らないモノを警戒させてしまうのかも知れない。
あのご婦人がホストのようなモノを求めて来るとか、聞かされてしまった事も、何かを刷り込まれてしまったのかも知れない。
お店はお店、伊住さんは伊住さん。惹かれるのはお客さんの勝手な部分。オーダーメイドはオーダーメイドだ。勘繰り過ぎるのは止めた方がいい。それは、務に対してもだ。
私は…惚れやすいのだろうか。

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