愛されたいのはお互い様で…。
「あ゙ー、恥ずかしー…」
「…務」
「…何」
「好き、…なの?」
「ぁあ゙?…馬鹿か。…当たり前だ。…決まってるだろ」
照れ隠しなのだろう、何となくこっちは見ないで返事をされた。…そうなんだ。フフ。そうか…好きなんだ。
…うん。話してみようか…。
「務、私ね…知らなくて…、奥さんの居る人とつき合ってたみたいだったのよね。あの日は偶然だった。二人で居るところを見掛けたの…。直接声を掛ける事も、確認もちゃんとした訳じゃ無い。だけど、そうなんでしょって取れるみたいなメールをしたら、何も連絡が来なかった…。言い訳も何も無いって事。…そうだったって事よね。
大事にならずに切れて良かったと思ったのかな。私だって問い詰めなかったし。
私との事は、奥さんには知られずに終われたのかも知れないね…。
仲、良さそうだった。というか、奥さんの方が、凄く好きって感じだったのよね…。全然気がつかなかった私も馬鹿だったけど、…あの人も馬鹿だよね…壊したくないモノがあるくせに…私との事は、何だったのよって…感じ…」
はぁ…言っちゃった…今更、こんな女、どう思うだろ…。知らなかったと言っても、世間的には不倫…まともな恋愛をしてなかった女だ。結果、身体の関係だけの女。辛いつき合いをしていたと思ってくれるのかな。それとも…軽蔑…かな…。
「紫……、ん、…」
…あ。
「ちょっ、務…酔、ってる?」
面食らった…。ここ、…お店だよ?…。口元を押さえて顔を見た。
「いや…、この程度で酔って無い」
名前を呼ばれ務の方に顔を向けた。お店にも関わらず、務は隣に座る私の顎に手を添えるようにして唇を触れさせた。驚いているのは私だけだろう。
私は店の奥側に座っていた。多分周りからは、話している顔が重なって見えるくらいの事だ。
でもこんな…恥ずかしい事するなんて…。驚いた。
「終わった事だ。あの日…特に聞かなくていいと思った。だから聞かなかった。言わなくていい事だ、どうでもいい。だからもういい」
「…うん」
「相手の事を知らなかった後悔はあるかもしれないが、無かった事には出来ない…もう終わった事だ。……聞けば俺は…どういう関係性であったとしても…妬いた。直前までつき合っていた男との事だから」
務…。有り難う。
「…うん」
カウンターの上にあった務の手に触れ、手首を軽く握った。腕時計が冷たかった。
「……紫」
「…ん?」
「フ、…もう、ご飯は堪能したか?大体食べ終わったけど」
「…うん、はい」
「フ、…ハハ。少し酔ってるのか?…なぁ、もう…出ようか…」
手を握り直された。
「はい」
「じゃあ…、帰ろう」
「…はい」
「…うん」
お店を出て、蒸せるような暑さが残った中を、務に手を引かれて歩いた。
「…務?…これは、世間一般的にイタくないのかな。私達はそれ程若くないよ?」
繋がれていた手をちょっと振って見せた。務がしている分には可笑しくない。この手の相手が私ではなく若い子なら、してる事は素敵に見えるだろうから。
「思ってる程誰も見てやしないもんだ…酔っ払いがしてる事だよ。…別にいいんじゃないのか?人の目なんか気にすんなよ。俺がしたくてしてる」
「…うん」
身体が疼いた。この人に終わりにしようと言われたら、…その時は…終わりだ。だけどそれは、今はまだ言われたくないかも…。
「…務、…スーパーマン…」
「ん?いきなり何だ、…それ、古くないか?」
「言葉の意味としては古いも新しいも無いよ。…務…ありがと」
「何だ、酔っ払い。大した話はしてないだろ。今日は特に変だぞ?別にいいんだけど可笑しいな」
「…うん、……ごめんね」
言葉に出さずに、色々勝手に考えちゃってごめんね。最近、悪い妄想がやめられなくて…。
「…務」
「ん?」
「…好きかも知れない…凄く」
「フ、何だよそれ…本当…おかしな奴だな…。そんなのは解ってるよ。当たり前だ。じゃなきゃ困る」
「…うん」
「…フ。俺も。凄く好きかも、だ」
「…うん。フフ」
いつもこんなに甘いなら何も考えないのかも知れない。今夜だけなのに…単純?