愛されたいのはお互い様で…。
「店は店だけなのか?」
…もう…つかれ過ぎた…。務は私を抱き寄せて背中を撫でている。
務は凄く抱きしめてくれる。ただ抱きしめてくれる事が私は凄く好き。だから不安を忘れちゃうのかも。…寂しいのかな、…私。肌が恋しいとか。
理屈抜きに少しでも務に触れていたい。
「住まいの事?だったら知らない。…建物自体は割と大きいから、もしかしたら店の奥に生活空間があるのかも知れない。何か務の仕事に関連する話?」
「いや、紫の身の危険の話」
「え、何、それ…」
「一人でやってる店だろ?男だろ?そんなところで、奥に部屋があるなら、危険も無い話じゃない。部屋に限らずだ。紫は…夜、行ってるだろ?仕事帰りに」
「うん…でも、それは心配し過ぎでしょ?」
確かに、雨の日も晴れの日も、訪問したのは夜ばかりだけど。
「じゃあ、よく知らない人間の信用て何だ?」
「え?んー、目に見えてる印象とか…言動に不信が無い事。態度…とか、じゃない?」
「昔からの知り合いでもない。客相手なら愛想は良くて当たり前だぞ?」
「そう言われたら、どこの店の誰も信用は出来ない…」
これでも私の中でも伊住さんは警戒対象だと思っているのよ?
「そうだよ。安全ていうのは、他人の目が複数あるから安全なんだ。他の客に会った事はあるのか?」
「それはある。行った時に先客が居たから」
「そうか。時間指定されてる訳でもないのか」
「無い。いつも行き当たりばったり。…務、急にどうしたの?」
「ん。…心配してるだけだ、呑気な紫が心配なだけだ。独身なのか?結婚してるのか?いや…そんな事、解っても意味は成さないけどな…」
…確かに。結婚してるからって、他の人を好きにならないとは限らないし…、遊びならいいと、関係を持たれるかも知れない。
妻帯者なら、それは私、経験済みになってしまいましたから、…解ってます。肝に命じてます。
何だか、務…。あ。
「…紫」
ずっと撫でていてくれた務の腕は私を更に引き寄せるようにして抱いた。私も務の胸に顔を寄せた。
大きな手で頭を押し付けるようにされ抱きしめられた。