愛されたいのはお互い様で…。
「…見られてたのか」
…え?その言い方、何?…。思わず首を起こしたら務の手でゆっくり胸に戻された。…あ、…な、に。
「言わなくて悪かった」
「え?」
どういう事なの。
「んー、終わらない仕事の流れで、そのまま一旦、食事をしないかって事になった。それで手頃な店はあの時間からだと一杯で、探すのが面倒臭くてさ…。それで、紫とはあの店、行けなくなっただろ?まだ店には駄目になったこと連絡してなかったし。だから、何か良くないけど、そのまま使わせて貰ったんだ。
こんなのって嫌だろうと思って、特に言わなかったんだ。一緒に居た相手も女性だし、二人だし。でも…見られてたって事だろ?何か疑って、わざわざ店、覗きに行ったのか?」
約束をキャンセルした俺を初めから疑って、行く用も無くなったのに、見に行ったのかって、言ってるのよね。
「それは違うの…わざわざじゃなくて、行けなくなったし、とか思いながら、何となく店のある通りの方を歩いてたら…奥の席に居たのが見えたの…それだけよ?本当に偶然よ?」
「はぁ。…見掛けて気になってたら、聞けば良かったじゃないか…。あんな、怖いモノみたいな表現で遠回しに探られても、全然ぴんと来なかったし、俺としてはただ怖いだけの話にしか取れなかったよ」
確かに…甘えるように抱きしめてきたよね…。それは本当に仕事関係だから、全く動揺がなかったって事だ。
「…どんな気持ちだ?」
「え?」
「本当に仕事だったのかって、やっぱりちょっとは疑ってるんじゃないのか?こっちから聞くまで言ってくれなかったじゃない、それって疚しいからじゃないの、ってね」
「疑わないけど、…あの日はよく解らなかった。混乱した。…ドッペルゲンガーかと思っちゃった」
「怖い怖い。紫は本当…飛躍し過ぎだって…。そんな話とか。それって、自分で自分を見たら死ぬとか言うじゃん。…殺す気かよ…」
「世の中、似た人は三人居るとも言うから、その一人かも知れなかったのかな…」
「…間違いなくそれは俺だから。そっくりさんでも無く、三つ子でも無い。正真正銘、俺だ」