愛されたいのはお互い様で…。
「…これをベースに見て貰って……ん?」
「はぁ、レモンティー…美味しいなぁと思って」
仕事帰りだし、疲れているからもあるかな。
「それは良かった。今日も暑かったですね」
「はい。…本当に…酸味が美味しい。変ですね。レモンティーを、これ程美味しいと思って飲んだ事、無かったかもしれません。今まではただ飲んでただけ、みたいな。でも、このレモンティーが特別美味しいのかも…」
「それはですね…ちょっとしたエッセンスの力ですね、きっと」
「…エッセンス?」
「はい…エッセンス」
何だろう?特別なレモンとか?茶葉が違うの?
椅子を引っ張て来て隣に座った。テーブルの上にスケッチブックを置くと開いた。
「ヒールは5センチ位にして書いています。それに細めの2本のストラップで。これをまた編み込んだ物にすると、…こんな感じで」
スケッチブックと、ノートパソコンを使って素早くデザインを変えて色々なパターンを見せてくれる。
「色は、やはり濃いワインレッドが一押しなんですが、どうですか?紫さんが好きな色が一番ですから、私が押し付けてもいけない」
「はぁ、…色は、ベーシックに黒も欲しいんですよね。デザインは、…あぁ、凄く迷います。このパターンもこのパターンも欲しくなってしまって。欲張りですね。欲しくて堪らなくなります」
「では、こうしませんか?黒とワインレッド二足で。黒の方はシンプルに2本のストラップでしっかりと。ワインレッドの方は、編み込んだストラップで少し可愛らしく。
黒は掛けるタイプの留め金で、ワインレッドの方はくるみボタンを付けてスナップ留めで。…どうでしょうか?」
「…はい…それがいいです。あの、でも…」
「ん?あ、お値段ですね?…お値段は…、そうですね…1.5足分でどうでしょう」
「あ、でもそれでは。嬉しいですけど駄目です、単純に儲けを減らさせてしまいます」
「…あ。…ハハハ。すみません笑ったりして…律儀ですね。いいんですよ?こちらに気を遣って頂かなくても。一つに決めきれないのでしょ?どちらも特長が違いますから。それぞれに良さが異なります。迷ってるならどちらも手に入れたらいいだけの事です。そう出来るように私からの少しのアシストですから。1.5足分だと言っておいて、実はきっちり2足分の金額かも知れませんよ?」
「…あ、それは」
なるほど。思っても見なかった。悪い人なら、というか、商売上ない事ではない。
「多分、ずっと感じていると思いますが、うちは…見るからに怪しい靴屋です。でも、儲けとかは別に要らないんですよ?」
「?」
「あー、…ん、そうですね…、生活面では困っていない、と言えば、理解して貰えます?」
「…趣味のお店って事ですか?」
「はい、そうですね、そういった…店は趣味のようなモノですね。だから、紫さんが、欲しいと思ってくれた物を作れるなら、私はそれが嬉しい。その欲しくなってくれた欲望を充たしてあげたい…」