愛されたいのはお互い様で…。

「中敷きもただ敷けばいいと思いがちですが、足に合っていなければ、違和感や苦痛の元にもなります。へたって来たら交換も必要になります。
足の形も日々変化します。足を大事にしようと思ったらメンテナンスは必須ですね」

流石、靴屋さんは靴屋さんだ。ご尤もです。

「肌が疲れて、パックして…、何とかしようとするのはメンテナンスになってるんですかね?」

馬鹿な聞き方をした。靴も、クリームを塗ったりと、手入れが必要ですよねと言いたかったのに。

「ん?…お顔のパックですか?んー、しないよりはした方が、本人が納得って感じの行為じゃないでしょうか」

確かに。…求めるモノ、結果、…付け焼き刃には限度がある。それでもその日だけ応急処置的にしてしまう。

「靴も革のお手入れをして可愛がってあげると、長く、手放せない程、愛着も湧く物ですよ?元々が気に入って手に入れたものでしょうから」

「そうですね。これからはずっと大事にします」

そうです。その事が言いたかったのです…。

「…はい。いいですよ…」

「有難うございました」

両手を前から乗せるようにして伊住さんの手を握っていた。その手を離された。

「棚に足型が並んでいるでしょ?紫さんの採寸した足もあんな風に作ります。そして、それに合うように靴を製作します」

「うわ。楽しみです」

「二つ揃ってから取りにこられますか?それとも一足ずつ?黒から?ワインレッドから?どちらから作りましょうか」

「あー、どうしましょう。んー」

「先にどっちを見てみたいですか?」

「ワインレッドの方かな」

「では決まりですね。ワインレッドの方が出来たらご連絡します。それから黒を作りましょうね」

「はい、お願いします」

「あっちの部屋に戻りましょう。顧客カードにご連絡先を記入して頂けますか?」

「はい」

漠然と訪ねていた者から、これでお客さんになったって事かな。
< 37 / 151 >

この作品をシェア

pagetop