愛されたいのはお互い様で…。
「…さあ、入ってください」
ドアを開けられた。
「あ、でも…」
「もう来ちゃいました。夏だとはいえ、こんなに濡れては駄目ですよ?…はぁ、もう少し早くお会い出来ていたら良かったですね。それに、あんな風に力無く歩いているのは危険です。夜なんですから。さあ、入って」
…。
初めて入った。Ginzirouの店舗の裏手。お店の奥は伊住さんの住まいになっていた。
雨の中、歩いていた私に声を掛けて来たのは、他でも無い、伊住さんだった。名前を呼ばれ、さあ早くと腕を取られ、大きな傘の中に入れられて連れて来られてしまった。…フ。本当、簡単だ…力無く歩いていると危ないって事だ。
「中から鍵を掛けられますから、安心してシャワー、使ってください。着替えは私のシャツをお貸ししますから、着てみてください」
…。
「躊躇う気持ちは察しているつもりです。大丈夫です。壊してまで、開けたりしませんから」
そんなに…そこまで心配している訳ではない。ただ、声を掛けられて、ここに流されるように来てしまった自分に、ちょっと嫌になっているだけだ。自分の気持ちが複雑だからといって…今夜の私は…投げやりとまではいかないけど、何だか空しくて…寂しいと感じていたのかも知れない。これでは務に言い訳が難しい。フラフラと…警戒している相手のところに…。
強がりも大概にしておかないとって…話したのに。自分の心に嘘ばっかりついて……はぁ。やっぱり務に聞けなかったから。疑心ばっかりで心が埋まっていく…。
「では…お借りします」
「あー、やっと素直になってくれましたね」
「え?」
「ずっとこのまま、濡れたままなら、連れて来た意味なんて無いですからね?…良かった」
「あ、それは…はい、すみません。ごめんなさい」
「…いいんですよ。謝るのは可笑しい…さあ、ゆっくりでいいですよ、どうぞ」
「…はい」
「出たらお茶にしましょうね。あ、ご飯は済んでいますか?」
「…はい」
そのご飯を食べに行ったばっかりに、こんな様子になってしまったんです…。
廊下を進んで浴室に案内された。鍵、掛けてくださいね、と言われた。