愛されたいのはお互い様で…。
濡れてしまったから伊住さんの家でシャワーを使わせて貰っている。ただそれだけなのに、物凄く罪悪感を感じてしまう。それは自分の中で、何か別の渦巻いているモノがあるからだ。
ここに来るくらいなら自分の部屋に帰った方が近かったのではないか。
雨で濡れた身体を、シャワーを借りて流すだけ。これが私がここでする事の事実、全て。だけどそれを務に伝えて、そのまま受け取ってくれるとは思えない。…当たり前だ。あんなに気にしているのだから。これは迂闊な行動だ。叱られて当然の事をしている。なんで濡れたまま走って帰って来ないんだ、って言うに決まってる。
伊住さんは務の直接知らない男の人だからだ。男の人であっても自分の友人だったら全然意識は違うのだろうけど。
あれ程、思いもよらないくらい気持ちを露わにして、行っては駄目だと言っていた人のところ。そこに来てしまっているなんて、務からしたら有り得ないからだ。そうまでして来るのか、って事になる…親切からの偶然だとしてもだ。
またこうしてストッキングを脱ぐという行為…。
服を脱ぎ、下着を脱ぐ行為より、妙に感じてしまうのは、変に何度も意識付けてしまったからかも知れない。
ストッキングだって身に着けている衣服の一つに過ぎないのに。身体に密着してしまう物だからだろうか。
のんびりと気持ち良くしているのとは違うが、考え事をしていると、結果、シャワーは長くなってしまっていた。
はぁ…身体を拭い、借りたシャツを頭から被った。
廊下に出るとドアの閉まる音が聞こえたからだろう、即、リビングから声が聞こえて来た。
「紫さ〜ん、ワンピース代わりになってますか〜?」
シャツの事だ。
「あ、は〜い、大丈夫です〜。とても大きいので、何とかなってま〜す」
「では、こちらに来てくださ〜い」
「はい」
着て駄目だったら、また何か別の物で何とかしてくれようとしたのかも知れない。様子が解らない内は…、もしもあまりに露わになり過ぎていたら、見てはいけないと思ったのだろう。
姿を見ない内に確認してくれたのだ。
リビングに入るとエアコンが効いていて気持ち良かった。
「有難うございました。…何だかぼーっとのんびりしちゃって、すみませんでした」
「構いませんよ。具合は悪く無いですよね?長かったので少し心配はしていました。寒くないですか?ドライにしてます。私の身体も湿気ていますからね。……ここは笑うところですよ?」
ぴんとこなかったから、咄嗟に反応する事が出来なかった。伊住さんも雨の中を歩いていたのだ。傘を差していても肩や背中は濡れがちだ。まして途中から私の方に多く差し掛けてくれていただろうから、伊住さんだって濡れているだろう。
「さあ…、こちらに座ってください。これは、膝に…腰掛けるとどうしても露わになってしまいますからね」
ソファーにはさらっとした麻の膝掛けが用意されていた。
「有難うございます。それから有難うございました」
「ん?」
「あ、えっと…濡れて歩いているところを、声を掛けて頂いて、です」
「そんな事は。声を掛けた事が良かったか悪かったかは解りませんが…。紫さんの気分的には、放っておいて欲しいと思っていたでしょうからね。お節介ですよね。取り敢えずは、世間の男から危険回避しておかないとね。そう思ったからですよ」
「そんな事は…大丈夫ですけど、すみません、有難うございました」
会うはずもないのに、たまたま見掛けてしまって…。私を知っている伊住さんにとっては、人として、声を掛けざるをえない…、迷惑な状況だったに違いない。
「ローズヒップティーを入れてみました。…どうぞ。少し…香りだけでも落ち着けるかも知れませんよ。ローズの香りは女性ホルモンにも作用するとか…ビタミンCもとても豊富なんですよね」