彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~

聞いてみると、タヌキは実に巧妙に早希の心の傷を癒しながら早希の心を繋ぎ止めていてくれたようだ。

一旦、俺から完全に引き離して彼女を実家に戻した。事情を抱えた姉と母の手伝いをさせたこともよかっただろう。
高橋の父親の社長に頼んでTHに勤務させたが社長秘書にして他の男性社員との接触を最低限にした。

タヌキが頻繁に早希とメールのやりとりをしていたのは、早希の様子を知るためだけではない。
こちらの会社の様子をさりげなく教えて、彼女にまだ会社と繋がっていると思わせていたのだ。

彼女の可愛がっていた後輩がヘアスタイルを変えたとか、デスクを掃除したら、あの時探していた消しゴムが出てきたとか、観葉植物を枯らしてしまったとか、社食のカレーは相変わらず甘いとか。
彼女はメールを読む度会社を思い出しただろう。

早希同様、タヌキは俺にも度々早希の話をしてきていた。
俺の様子をうかがっていたのだろう。
早希の代理人を名乗っていたのもタヌキだった。
どうして気が付かなかったのだろう。それ程あの時は逆上していた。

あの時、副社長室に飛び込んできた女は早希を傷つけた罰を受けてもらった。当然、その父親の会社とは取引停止だ。
業界内では噂が噂を呼び、俺を特に女性絡みで怒らせてはいけないと認識されたらしい。
恋人を溺愛しているとの噂もあり、すぐに見合い話などはほとんど無くなった。

仕事に精を出していると、タヌキから早希に関する情報提供が小出しにあり、まんまと策略に乗せられて現在に至る。

早希はこのプロジェクトに俺が関わっていることを知らない。
ぎりぎりになって知るはずだ。
その時に逃げられないようにTHの社長と社長の第1秘書に協力を仰いである。
新幹線の到着時間もずらして知らせる手はずになっている。



とにかく、捕まえる。
もう逃がさない。
君が嫌だって言っても認めない。
今度は気持ちをしっかりと伝える。
君に隣にいて欲しい。
一緒にまたあの星空を見上げたい。
悪いけれど、もう離してあげないよ。
覚悟して。





 おまけストーリー1 END
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