彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
「さっきも言ったけど、早紀さんに聞きたいことがたくさんあるんだ。でも、先に言っておくよ」

副社長の真っ直ぐな視線にドキドキが更に増す。

「俺はあの夜の事を忘れることはないし、早紀さんにも忘れて欲しくない。後悔はしていない」
私は目を見開いた。
それはどういう意味?

「ああ、後悔はしていたな。あの夜、早紀さんの名前を聞かなかった事、そして逃げられてしまった事」

「副社長、私・・・」

「早紀さんはどうして忘れて欲しいと?」

副社長の真っ直ぐな眼差しに耐えられず、うつむき深く息を吸った。
「私は社員ですし、その、副社長の汚点になってはと」

自分の会社の女子社員と一夜限りの遊びをしたとか、それってあまり体裁が良くないんじゃないのだろうか。
それとも、独身でイケメンの副社長なら女遊びも男としての箔のようなものになるのだろうか?

「それだけ?」
なおも追及されるが、答えに詰まる。

「さっきの店で、いなくなったのは俺のせいかと聞いたら、あなたは違うと首を振ったね。それは間違いない?」

声は出さず、目を閉じてまばたきで返事をする。

「じゃ、俺の方は何も問題ない。早希さん、あなたは独身のはず。お付き合いしている男性がいるとか、俺と2人で会う事に何か問題はある?」

「付き合っている人はいませんけど…」

稔には棄てられるように振られたばかり。
でも、私の頭の中は疑問符でいっぱいだ。副社長が何を言いたいのか全くわからない。

私が混乱しているのがわかったのか副社長はふっと笑った。

「ごめん、何を言っているんだって感じだよね」

そしてまた私をまっすぐに見ると
「早紀さん、俺はあなたのことを忘れられなかった。あの夜あなたがいなくなっていてとてもショックだった。あなたがあの夜の事を忘れたいならそれでもいい。でも、だったら、今夜ふたりの出会いからやり直させてもらえないか?」

副社長の意志の強そうな真剣な眼差しに戸惑いを感じる。

信じられない。
本気で言っているのかしら?
出会いからやり直す?
そこにはどういう意味があるんだろうか。

私はじっと副社長を見つめた。







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