彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
先日、うちの部署が数ヶ月をかけ総出で取り組んでいた大プロジェクトの成功を祝しての慰労会が開かれた。
部長はじめ部員たちは大いに盛りあがったのだ。
私も気が緩み、それまでの疲労もありかなり酔っていた。
皆で2次会の店に歩いて移動していると、私の少し後方を若い社員と一緒に歩いているはずの部長の姿をなぜか前方に見つけた。
何か大きな荷物のようなものを背負って歩道側に背中を向けどこかのお店の入口の横に立っている。
部長、何をしているんだろうとぼんやりと考えた。背中を向けているからわからない。背筋を曲げているから誰かと携帯で話をしているとかだろうか?
そのうちに若い大学生位のチャラチャラした姿のかなり酔っている男の子達に囲まれ、あっという間にあろうことかこづき回されてしまっている。
「部長!」
何てことを!私も酔っていたけど慌てて駆け寄った。
「あなたたち止めなさい!うちの部長に何をするの!」
怖いとかいう感覚は麻痺していた。
私の怒鳴り声に若い男の子達は驚いて振り返った。
「え?これ、あんたの部長なの?」
「こいつ、名前があるんだ」
そう言ってケタケタと笑い出した。
何て失礼なっ!
一流企業の部長でしかも人柄も抜群にいい人なんだぞ。そんな人に向かって『これ』とは!
「そうよ!だからやめなさいっ」
私が声を荒げると、先ほどまで私と一緒に歩いていた同期の高橋が追いついてきて
「ごめんね。こいつかなり酔っているから勘弁してやって」と男の子達に謝りはじめた。
「だって、部長が」
何であんたが謝るのよとキッと高橋を睨む。
そんな私たちの様子に男の子達はさらに笑い出した。
そして男の子の1人が私に言った。
「ごめんね、お姉さんの大事な『部長』を小突いたりして」と言い、みんなで部長を取り囲んでいた輪を崩した。
そして・・・輪の中にいたのは
『うちの部長』ではなく
150センチはあろうかという巨大な信楽焼の狸だった。
ひぃぃっ
部長じゃない!
これうちの部長じゃない!
私は硬直してしまった。