彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
そっとベッドに下ろされる。
目を開けるとすぐ目の前に副社長の顔があり、私を見下ろしていた。
「早希さん」

私は黙って彼の首に腕を回しキスをねだった。
んっ。
テラスで交わしたキスより深くて情熱的だ。
もう引き返せない。引き返す気はない。

副社長の手が私のワンピースのファスナーに手がかかった。スルリとワンピースが私から離れていった。
私も彼のシャツのボタンに手をかけた。
副社長はフッと笑い、私の自由にさせてくれた。
私が彼の身体からシャツを脱がすと、私の手を優しく掴んむ。
両手の指と指を絡ませてしっかりと手をつなぎ、またキスが始まった……。




目を開けると目の前には副社長の逞しい腕があり、私は背中からしっかりと抱きしめられていた。
外はまだ暗い。

あの夜と違い、目が覚めても彼がいる。私は安心してまた目を閉じてまどろんでいたけど、ふと気がついた。
私の体重はそんなに軽くない。
私の身体の下敷きになっている副社長の腕が痺れてしまう、いや血流障害を起こしたり神経を傷つけては大変だ。
私の身体の下から副社長の腕を抜こうともぞもぞと動いた。

「う・・ん・・」
副社長は目覚めてしまったのか、そっと動いたつもりだったのに、私を抱きしめる力を強めてきて私は却ってしっかりとホールドされてしまった。

動きを止めて様子を窺うけど、目覚めたわけではないらしい。呼吸は規則的で寝息のようだ。

これって無意識にやってるのかしら?
でも、副社長の腕がしびれちゃう。

もう一度ゆっくりと副社長の腕の間から抜け出そうと身体をひねっていると
「早希、どこにいこうとしてる?」
頭の上から副社長のかすれた声がした。

「ごめんなさい。結局起こしちゃった」
背中から抱かれていたから顔は見えない。少し身体を起こそうとしたら、またしっかりホールドされる。

「どこに行くの」

今度はしっかりとした声だった。しかも少し語気が荒い事に気が付いて、焦って半身をねじるようにして副社長の顔を見た。
眉間にしわを寄せて、機嫌が悪そうだ。

「どこにも行かない」

「副社長の大事な腕がしびれちゃうから私の身体をずらそうとしていたの」

「えっ?」

副社長が声を出して腕の力が緩んだ。
私は縮みこむようにして自分の頭を副社長の腕枕から外した。
彼の厚くて温かい胸に顔をうずめてぬくもりを確かめてから彼の片腕を手繰り寄せて自分の両腕で抱きしめ上腕にキスするように顔を付けた。
今は私が副社長を独り占め。

「早希、怖い声を出してごめん」
私は返事の代わりに抱きしめていた副社長の腕にキスを落とし、目を閉じてまたギュッと腕を抱きしめた。

「早希」

いつもの優しい声じゃない。

どこか戸惑っているような焦っているような声に、私は仕方なく顔を上げて副社長を見た。
このまま彼の腕を抱きしめて頬をすり寄せてまだしばらくまどろんでいたかったからそれを邪魔されて少し不満だ。
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