彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
目の前が真っ暗になり、血の気がひく。

今見たものが嘘であると信じたい。

震える手でバッグの中からスマホを取り出して稔に電話をする。

呼び出し音が続き、そして留守番電話に切り替わる。
稔の声は聞くことができない。

『稔、今どこ?』

震える手でメッセージを送る。

そのうち指先が冷たくなって、吐き気に似た気分の悪さを感じる。喉元に心臓があるみたいだ。
どくどくとして首から胸元が苦しい。

待っていてもメッセージは既読にならない。

またメッセージを送る。

何度送っても既読にならない。

何なのこれ。

2人はどうしてここにいるの。

2人は今何をしているの。

2人はどんな関係なの。

いやだ。

いやだ、このホテルで何してるの、私も今ここにいるのに。


とにかくもうここにはいたくない。いられない。
ここから遠く離れたい。
嫌悪感で吐き気がする。

力の入らない足を引きずるようにしてパーティー会場に戻って由衣子の姿を探す。

キョロキョロしていると由衣子が私を見つけてくれた。

「どうしたの、顔色が悪いわよ」

壁の周りにあるソファーに私を誘導しようとするのを押しとどめる。

「うん、ちょっと気持ち悪いから先に帰ろうと思って」

「そんなに具合が悪いなら、一緒に帰るよ。送るから待ってて」

優しい由衣子がそう言い出したけど
「大丈夫、すぐタクシーに乗るし。それより私の抽選券あげるからいいモノ当てて」
と私の抽選券を由衣子に握らせた。
< 6 / 136 >

この作品をシェア

pagetop