彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
目の前が真っ暗になり、血の気がひいた。

今見たものが嘘であると信じたい。

震える手でバッグの中からスマホを取り出して稔に電話をする。

呼び出し音が続き、そして留守番電話に切り替わった。
稔の声は聞くことができない。

『稔、今どこ?』

震える手でメッセージを送る。

そのうち指先が冷たくなって、吐き気に似た気分の悪さを感じる。喉元に心臓があるみたいだ。
どくどくとして首から胸元が苦しい。

待っていてもメッセージは既読にならない。

またメッセージを送る。

何度送っても既読にならない。

何なのこれ。

2人はどうしてここにいるの。

2人は今何をしているの。

2人はどんな関係なの。

いやだ。

いやだ、このホテルで何してるの、私も今ここにいるのに。
稔の恋人はわたしではないの?


とにかくもうここにはいたくない。いられない。
ここから遠く離れたい。
嫌悪感で吐き気がする。

力の入らない足を引きずるようにしてパーティー会場に戻って由衣子の姿を探した。

人の多い会場内をキョロキョロしていると由衣子の方が私を見つけ駆け寄ってきてくれる。

「どうしたの、顔色が悪いわよ」

壁の周りにあるソファーに私を誘導しようとするのを押しとどめた。

「うん、ちょっと気持ち悪いから先に帰ろうと思って」

「そんなに具合が悪いなら、一緒に帰るよ。送るから待ってて」

優しい由衣子がそう言い出したけど
「大丈夫、すぐタクシーに乗るし。それより私の抽選券あげるからいいモノ当てて」
と私の抽選券を由衣子に握らせた。

このあと始まる抽選会はかなり高額なものが当たるため社員の皆が期待し楽しみにしているものだ。
わたしのその一人だったけれど、今のこの状況ではそんなことも最早どうでもいい。

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