彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
そう、女の嫉妬やひがみはなくなることはない。でも、親友に対する悪口を聞いているのは辛い。
反論してやっつけてやりたいけれど、この会社のパーティーで騒ぎを起こすわけにはいかない。

ここの化粧室に入るのは諦めて他のフロアにしよう。

こんな社員の集まる場所で悪口を言っていた彼女たちにはそのうち天誅が下ると思う。というかそう信じている。

わたしに反論された彼女たちはその後各々配置転換になっていた。プライドの高いメンバーが揃う法務部の中に放り込まれ基礎から叩き込まれている者、接客マナーに厳しい上司の元で新人と一緒に秘書課の見習いをしている者、そして一番悪口を吹聴していた女性は本社から遠く離れた支社に転勤になっていた。

この配置転換は偶然ではないような気がするが、あまり深く考えないようにしている。

神はきっといるのだから。





一つ下のフロアにはエレベーターを使わずに螺旋階段で下りていくことができる。
そこはイタリアンや鉄板焼きのレストランがあるフロアで一般利用客がいるから気が楽だ。

予想通り下のフロアの化粧室はすいていた。

化粧室から出て先ほど来た螺旋階段に向かうところで、ふとその先のイタリアンレストランから出てくるカップルが目に入ってハッと息を呑んだ。

・・・まさか。

わたしの視線の先には信じられない人物がいた。

稔と……里美だ。

目をこらして見ても間違いない。
あれは私の恋人、秋野稔。

2人は腕を組んでエレベーターホールに向かっていた。
とっさに元いた化粧室の入口に身を隠す。

バクバクとする自分の心臓の鼓動がうるさい。

そっと覗くと、エレベーターホールで稔が里美の額辺りにキスを落としているのが見えた。
里美が零れるような笑顔を見せる。

自分の目を疑った。

あれは本当に自分の付き合っている彼の稔なんだろうか。

相手は私たちの大学の後輩で稔と同じ会社に入った平沢里美だ。

2人はエレベーターに乗って上層化に上がって行った。
それはエントランスに向かうものじゃなく、宿泊客オンリーの客室専用エレベーター。

それって…、
もうそういうことだよね。


< 5 / 136 >

この作品をシェア

pagetop