彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
そう、女の嫉妬やひがみはなくなることはない。

でも、親友に対する悪口を聞いているのは辛い。

ここの化粧室に入るのは諦めて他のフロアにしよう。

確か一つ下のフロアにはエレベーターを使わずに螺旋階段で下りていくことができる。
そこはイタリアンや鉄板焼きのレストランがあるフロアで他の利用客がいるから少しは気が楽だ。

予想通り下のフロアの化粧室はすいていた。
化粧室から出て、先ほど来た螺旋階段に向かうところで、その先のイタリアンレストランから出てくるカップルが目に入った。

ハッと息を呑む。

稔と……里美だ。

目をこらして見ても間違いない。
あれは私の恋人の秋野稔。

2人は腕を組んでエレベーターホールに向かっていた。
とっさに元いた化粧室の入口に身を隠す。

バクバクとする自分の心臓の鼓動がうるさい。

そっと覗くと、エレベーターホールで稔が里美の額辺りにキスを落としているのが見えた。
里美が零れるような笑顔を見せる。

自分の目を疑った。

あれは本当に自分の付き合っている彼の稔なんだろうか。

相手は大学の後輩で稔と同じ会社の平沢里美。

2人はエレベーターに乗って行った。
それはエントランスに向かうものじゃなく、宿泊客オンリーの客室専用エレベーター。

それって…。
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