彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
あの後、警備員を呼び女を副社長室から追い出した。弁護士に頼み正式に女と女の会社を相手に抗議した。
もうあの会社と取引をすることはないが、それはうちの会社にとっては痛くもかゆくもない。
それよりもこの件が業界内で噂になれば、俺に色目を使う女が減ってくれるだろう。そちらの方がありがたい。

でも、そんなもの今の早希には届かない。

先週、林と共に仕事の打ち合わせのために以前早希と行っていた会員制のバーに久しぶりに顔を出したところ、すぐに顔見知りのバーテンダーが早希のことで声をかけてきた。

ピタッと顔を出さなくなった俺と早希のことを心配していたらしい。
いや、バーテンダーが心配していたのは俺じゃなくて早希のことだが。

以前、2人で飲んでいる時に、俺が席を外したタイミングで早希に嫌がらせをしてきた女がいたというのだ。

「彼女すごいですよ。女の嫌味を平然と聞き流していて。でも女がいなくなるとすごく悲しそうな表情になるのに、康史さんが席に戻ると何事もなかったようにまたきれいに康史さんに微笑むんです。俺、思わず惚れそうになりました」

しかも、それは一度ではなかったらしい。
別の日に違う女が早希に何か囁いているのを見たことがあると言うのだ。


俺の知らないところで何度も早希が傷ついていた事実を知らされ、さらに落ち込んだ。

俺は早希の何を見ていたんだろう。
どうして気が付いてやれなかったのか。

必ずこの償いをしなくてはいけない。

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