愛され過ぎて…ちょっと引いてます
この車が走り出す前に運転手さんに住所を聞かれ、私の住むアパートを伝えた。

まだ素敵なマンションなど住めるわけもなく、今の私には精一杯の物件。

そんな所へ送って頂くことを恐縮しているのに、食事までご一緒するなんて。

ありえない!私、倒れてしまうかもしれないよ。

何と返していいか分からず口ごもっていると、副社長は微笑んで見せた。

「今日はやめておくか」

その声はとても優しい。

その気遣いに心の中で『すいません』と謝罪しておく。

それから10分程で私の住むアパート前に到着した。

運転手さんがドアを開けてくれたので車を降りようとした時、また左手が大きなぬくもりに包まれた。

あっ...とそれを見れば、副社長の右手がゆるく乗せられている。

「また明日」

低く響く副社長の声は、それだけで色っぽい。

「送って頂いてありがとうございます。お疲れさまでした」

副社長と運転手さんに深くお辞儀をして車を見送った。

このアパートに似つかわしくない高級車。

何とも混乱の一日だったことに疲れ果て、その日はぐっすりと寝てしまった。
< 30 / 39 >

この作品をシェア

pagetop