お見合い相手は、アノ声を知る人
真剣な眼差しに捉えられ、言葉も失って彼を見た。
そんな風に少しも見えなかったから唖然として、直ぐには全部が本気だとは思えなかった。


だけど、彼の手が肩に置かれ、反対の手がそっと背中に回って来た時、ドキッとした。


「俺、明里とあの場所で再会出来たことに感謝してる。お前に会えたら絶対にしてやろうと思ってたことをしてもいいか?」


「な、何?」


緊張から鼓動が増して、それが辺りの静寂さを打ち消した。
遠くから聞こえてた蝉の声すらも聞こえなくなり、ドキンドキン…と打ち震える心音に耳を貸した。


「怖がるようなことじゃない。…ただ、抱きしめたいだけだ」


そう言うと、ふわっと両腕で私を包んだ。

温もりと汗の匂いを感じて、ぎゅっ…と胸が鷲掴みにされた様な気がした。



「……大丈夫。もう怖くない…」


そう呟く彼の声を聞いて涙が溢れ、つーっと頰を伝った。
あの夜、誰かにそう言って欲しくて、それでずっと明るくなるまで泣き続けた。



「…心配するな。俺が側に居てやるから」

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