お見合い相手は、アノ声を知る人
一人にはしない、と零す声に胸が打ち震えた。
彼の言ってくれる言葉が全て、あの日、自分が言って欲しい言葉と重なったから。


だけど。



「ダメよ、私は…」


腕を振り解こうと身をよじった。
こんな薄汚れた自分をこの人に任せてはいけない。

大罪を犯した自分は彼には似合わない。
どんなに先祖が出会わせたにしても応じてはいけないんだーー。



「明里!」


ぎゅっと自分の腕の中に押し込み、彼の手が後ろ頭を押さえる。心音が耳元で聞こえ、その速さに言葉を飲んだ。


「俺は何も今直ぐお前に俺を好きになれとは言わない。
結婚するのも焦らなくていいし、一旦は白紙に戻してもいいと思ってる。

俺の気持ちもただの嫉妬心か同情だけかもしれないし、明里の心に付いた傷跡を浅くしてやれるかどうかも自信はまだ無い。

…だけど、俺は明里の側に居てやりたい。
泣くなら背中を貸してもいいし、笑うならその顔を見ておきたいんだ。

月野家の先祖がもたらした命だからっていうのもあるけど、何となく目を離しづらい。

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