お見合い相手は、アノ声を知る人
(やっぱり慣れてないと言うか、どうも妙な感じ)



それでもお風呂に浸かると、そんな気遅れも緊張も吹き飛んだ。
外の景色が雄大過ぎて、ずっと入ってたい良さがあった。


「このままずっと入っててもいいかも」


そんな気分になるくらいリラックスして、室内の浴室で身体や髪を洗って出た。




「すみません。お先に頂きました」


浴衣の裾を踏まないようにそっと歩いて出ると、和室に寝そべってた彼がくぐもった声で「んー」と言った。


「何してるの?」


近づいて見ると本を読んでる。
もしかしてさっき支配人さんが言ってた民話の本?と訊ねると、そうだ…と言って起き上がった。


「読むか?その間に風呂入ってくるから」


「うん、読ませて」


辞書並みに分厚い本を受け取り、ごゆっくり…と彼を見送った。
座卓の上に本を乗せ、どれだろう…と目次を眺めているとーー。



『月が届けた宝』


そう書かれた題名が見つかり、もしかしてこれ?とページを捲った。

そこには、祖父が私に話してくれた江戸時代の深イイ話が書かれてあったーー。


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