お見合い相手は、アノ声を知る人
「息をしなされ!この世に生まれ出たお子よ!そなたの産声で母を勇気付けなされ!」


産婆も医師も御付きの者達もそう言って体を擦り合う。
しかし、お子の体は紫色になるばかりで、一向に息を吹き返さぬ。



「……ああ、駄目じゃ。この子は息をしてくれぬ」


医師は直行様を呼び、死産じゃった…と告げた。
咽び泣く当主にお子を預け、奥方様になんと言えばいいか、と目頭を潤ませた。


「妻には私から話そう。悲しむと思うが、黙っていてもいずれは知れる」


奥方様が気付けば呼べと申され、赤子の亡骸を手に縁側へと出た。
高々と月に赤子の身体を掲げながら、「生き返らせよ」と願い続けた。


誰もが無理なことと知りながら一緒に祈った。
ご当主の直行様も奥方様も、共に善き人達だったからじゃ。


その時、玄関先から大きな声が聞こえた。


「直行様は居られるか!居るなら是非とも願い給たいことがある!」


女中が駆け付けると、小作人の男が立っておった。
手には赤子を抱いておった。


「奥方様が難産じゃと伺った。無事にお子は生まれたのか!?」


< 179 / 213 >

この作品をシェア

pagetop