お見合い相手は、アノ声を知る人
必死な形相で聞く小作人は息を切らしておった。
女中は涙に暮れながら、死産じゃった…と教えた。


「それで今、月に生き返らせよと願っておったところじゃ」


「ご当主は?」


「縁側に居られる」


「是非ともご案内を頂きたい。どうかお願い申し上げます」


ぎゅっと赤子を抱いた男の姿を見て、女中はどうぞと招き入れた。

男は直行様の前に行くと頭を深く下げ、お子を前に差し出してこう言った。


「これは今より一日ほど前に生まれた我が子にござりまする。男子ではありますが、これを産んだ母親は先程亡くなりました。

直行様のお子様には見劣りするかもしれませぬが、どうぞこれを我が子としてお育て願えませぬでしょうか。

罰当たりなことは百も承知で参りました。

しかし、私の手元におっても面倒など見れませぬ故、どうかお願い申し上げます。


決して我が子だと口にせずにおりますから、どうぞお育て下さいませ。

生まれ出でた命を助けてやって下さい。ご恩は決して忘れませぬから…!」


頭を擦り付けるように願う小作人の姿に、周りにおった者達は涙した。

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