お見合い相手は、アノ声を知る人
一緒に願う者達も出て、亡くなったお子を抱いている直行様の目にも涙が溢れた。


「……どうか頭を上げて下され。そなたの御心、深く御礼を申し上げる」


そう言うとお子を医師に託し、男の差し出した子を手にされた。


その途端、子は元気のよい声を上げて泣き始めた。
意識が朦朧としておった奥方様もその声を耳にされ、息を吹き返されたのじゃ。



「おおっ!奥方様が目を開けられましたぞ!」


産婆の声にご当主は立ち上がり、小作人の男に向き直って名を授けた。


「そなたは只今より『月野』と名乗れ。月の夜に参ったそなたのこと、決して忘れぬようにする。

そして、代々この話を語り継ぎ、いつの日か必ずお前の家を助けようぞ」


月野と名を頂いた小作人は深く土下座を繰り返し、「もったいなきお言葉」と御礼を言った。


月野の連れて参ったお子は、『一明』と名付けられ、その後、小作人の苦労を理解する良き当主へと育ったそうじゃ。



月野地区に残る美しい命のリレーの話。

いつの世も、子に勝る宝は無しじゃな…」


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