ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
「君が生まれ育った山科家を破滅させようとしている俺が、君をずっと好きなのも可笑しい?
不幸にする俺が、君の側にいたいなんて滑稽だよな。
理屈の通らない俺の行動だって、どんなメロドラマや、サスペンスだって破綻してる!!
大好きな君を、不幸にしようとしている俺のこともやっぱり君は許せないか?」

瞳を揺らして、見上げる美桜は儚くて美しかった。

「山科亨三はもうお終いだ。
逮捕されて、司法で裁かれる。」

目が合った瞬間にゾクリと身体が痺れる。

「父はちゃんと裁かれるのね?
貴方は私を不幸にしてもいいわよ!!
ハル、貴方にされるなら本望なの・・。
どうしたらいいのか分からなくて苦しかった。
ごめんねハル・・。
どんなに貴方が孤独だったか・・。」

涙を流す美桜の涙の滴を拭ってあげる。

「馬鹿だな、君を不幸にしたいなんて思うわけない。
君の父は俺の父を殺したかもしれない・・。
だけど、君も聖人もそれを背負う事はないんだ。」

零れそうな大きな瞳が大きく見開かれて、美しい肖像画の天使のようだった。

長い睫毛に縁どられた、美しい瞳・・。

バラ色の頬。

優しく温かい体温・・・。その全てが愛しい。

「君は、胸を痛めて苦しんでいた。
父をバケモノと呼びながら山科家を可笑しいと言っていただろ。
嬉しかったよ、君が家を出て1人で必死に生きていることを知った時。
この町から出れないと悲しそうに微笑んでいた君が、自分でその檻から出ていたんだ。
その強さも、兄や周りを慮って動く君の優しさに・・俺はいつも救われているんだ。」

「分からないわ・・。私は貴方に何もしてあげられないもの。」

「俺は天才だったから人生なんか楽勝だった。君以外、思い通りだったんだよ。美桜お嬢様?」

挑戦的な笑みに少しムッとした表情で、頬を膨らました彼女は涙が引いたようだった。

「孤独じゃなかった・・。どんな時でも俺には君がいた。
・・いつか君とまた会える日だけを夢見てた。」

彼女の目元にそっと唇を落とすと、頬を赤く染めて口を開けた美桜が無防備で見上げる。

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