ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

未来の選択。

叔父の暑苦しい勧誘を流しながら、窓の外を眺めていた。

浮かれた町の雰囲気とは対照的に心の中は不安で満ちていた。

彼女に会って、何と言えばいい?

どんな言葉も間違いのような気がした。

礼を言って理央の家の近くで降ろしてもらった慧は、夜空に輝く月を見上げた。

大きく深呼吸をしてマンションへと向かう。

「こんばんわ。美桜は、来ていますか?」

玄関口では、いつもは明るい表情で応じる理央も今日ばかりは暗く落ち込んでいた。

「来ているんですけど・・。
さっきまで泣いていて、今は貴方に会いたくないと言っているんです。」

今、彼女に会わないでどうするんだ。

彼女を不安にしたのが自分なら、彼女の不安を拭うのも自分であるべきだと思った。

だって、こんなに愛してる。

君が誰であっても、俺が誰であっても同じように好きにだと言ってくれた彼女を。

「・・・すみません、お邪魔します。」

慌てた理央は、部屋の中へ踏み込もうとした俺の腕を掴んだ。

それを務めて冷静にゆっくりと振りほどいた。

「悪いようにはしません。無理に連れて帰る事もしないと約束します。
ただ、ちゃんと彼女と話しがしたいんです。」

真剣な目で微笑むと、理央は溜息をついて、頷きながら苦笑いをした。

ガラッ・・・。

リビングの引き戸を開けて、現れた俺を見てビールの缶を取り落とした美桜は真っ青になる。

「・・っ、慧!?ちょっと、何で勝手に入って来るの?」

「美桜ーー!!
私、酒買いに隣の駅まで行ってくるねー。じゃあ、二条さんごゆっくり。」

微笑みながら、サンダル姿で財布を持った理央は爽やかに微笑みながら部屋を後にする。

「な、何で隣の駅まで行くのよ!?コンビニなら5分のとこにあるじゃない。理央っ・・裏切者ー!!」

バタンと閉められた重い扉に、ゴクリと美桜は息を飲んだ。

静寂に包まれた部屋に、居心地の悪い空気が流れていた。

「さよなら・・。だっけ?俺達、付き合ってすぐにお別れなんですか?」

俺の言葉にビクリと肩を揺らした美桜は震えていた。

「どの面下げて貴方と生きていけばいいの?
1人しかいない貴方の家族を父が殺めた。
私はその残忍な父の娘なのよ?
貴方とハッピーエンドなんて絶対に無理よ!
どんなメロドラマや、サスペンスだってそんな結末、あり得ないわよ。」

後ろから、震える肩を掴んでぎゅうっと抱き着く。

手の甲に温かい涙が零れた。
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