ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

共犯。

その数か月後に、僕は現実の理不尽さと父の欲深さに愕然とした。

僕は14の年に出会ってしまった。

全ての価値観が壊れる程の衝撃に・・・。

ハルに似た整った顔に眼鏡をかけてモニターを見つめる男性が椅子に座っていた。

「聖人君、よく来たね。啓から聞いてる、どうぞそこにかけて。」

ハルに、将来は研究職になりたい事を相談していた僕は、医療の革新分野での世界的な権威であった
晴海教授の研究室にお邪魔することになった。

新しい治療医学の為の研究を第一線で行う、医療のソリューションを担う研究者。

アメリカで何年も研究して、画期的な新薬や、治療技術を見込んでうちの研究所に引き抜かれた
秀逸な人材であるハルの父に、話を聞きたくて僕は胸を躍らせて会いに行った。

将来、研究者になるなら海外で学びたいと考えていた事もあって彼から直接聞いてみたかった。

研究所の前には、父の愛用している黒いリムジンが停められていた事に驚く。

「研究は、人の為のものだ。命を救う為のもの、未来の希望になるものなんだ。
僕も妻を亡くしてね。
必死で研究して来て見つかった発見があるんだ、それが実用可能かを研究している。
だけどね、利権や、様々な理由でその発見すら横取りされたり、確証をとる前に競争に巻き込まれて
発表されてしまう事があるんだよ。」

研究について聞いていた僕は、途中から何の話をしているのか分からなかった。

「それは防げないんですか?
発見した物が本当に正しいのかなんて何度も再現したり、実験を繰り返さないと不確かなものですよね。
そんな状態で世に出すのは危険ではないんですか?」

「僕もそう思うよ・・。だけど、我先にと争われている競争原理の中ではそれすら危うい。
何の為の、誰の為の研究なんだろうね。」

悲しそうに笑ったハルの父の表情に、僕は戸惑いを覚えていた。

研究室の電話が鳴って呼び出された晴海教授は、一度断ったが電話口の人間の強い口調に眉根を寄せて
「ちょっと待ってて」と言い残して部屋を去った。

出て行く前に、溜息をつきながら机の引き出しから黒く輝く小さな物をポケットに忍ばせていた様子を見ていた僕は静かに閉じられた部屋のドアを胸騒ぎを覚えながら見守っていた。
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