これを愛と呼ばぬなら
「わかった、後は頼むよ。ゆっくりしていってね美沙ちゃん」

「ありがとうございます」

 バイバイと片手を振る久志さんに、私は頭を下げた。そんな二人を優子さんは微笑ましそうに見ている。

 本当にいつ見ても仲睦まじい、素敵なご夫婦だ。二人の人柄も、このお店の魅力の一つだと思う。そんな二人に憧れを抱くけれど、私には一生をかけても手に入れられない光景だろうな、とも思う。


「いつもの席でしょ? 窓際の」

 少しぼうっとしていると、優子さんが私の顔を覗き込んだ。

「あ、空いてますか?」

 お店の中庭を臨む大きな窓に沿って設置してあるカウンターの端っこが、私のお気に入りの席だ。

「ええと……。あら、ごめんなさい。今日は塞がってるわ」

 優子さんに倣ってお店の奥を覗くと、若い男性が座っているのが見える。

「あっ……」

 その横顔を見て、心臓が音を立てた。あの土砂降り夜、道路に立ち尽くしていた男性だった。

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