これを愛と呼ばぬなら
「僕も君の傘をずっと持ってるんだ。今度持って来る」

「傘なんて捨ててよかったのに」

「君だって箱を捨てなかっただろう?」

「あれは、さすがに無理ですよ」

 私が言うと、新井さんはまた笑顔を見せる。話し始めた時に比べたら、顔もだいぶ明るくなったように感じた。


 断る私に断固として新井さんは譲らず、コーヒーをごちそうになり、ライブラリーの前で新井さんと別れた。

 少し歩いて、住宅の庭先にノースポールが咲き誇っていることに気づく。ライブラリーに来る時は、まったく目に入らなかったのに。

「かわいい」

 誰に言うでもなく呟いて、軽い足取りで道を歩く。

 いつの間にか、彼に会える一週間後を楽しみにしている自分がいた。


< 30 / 83 >

この作品をシェア

pagetop