はたらかなくても、はたらいても君が好き
「すいませんでした…。魔がさしたとはいえ、社長が失礼な事を…」
やっぱり、魔がさしたんですね…。
「いえ、私は気にしてませんから…」
「本当に、すいませんでした…」
黒井秘書が私に深々と頭を下げる。
「いえ、私は本当に気にしてませんから…」
増月社長を見ると、私をじっと見つめている。
「早く…見せてくれないか…」
そうだ! 万年筆。
「は…はい…あっ! すいません!!!」
増月社長の手に辿り着く前に私の手がすべって万年筆が下に落ちてしまった。
ただ渡すだけなのに…緊張してしまうなんて…。
私は落ちた万年筆をすぐに拾い、顔を上げると、下を覗きこんでいた増月社長とぶつかる…寸前で止まった私。
「すいません…。あの…」
私の顔をじーっとただ見つめたまま全く動かない増月社長。
「増月社長…」
どいて下さ…。
「これです。社長」
私の横に来た黒井秘書が私の持っていた万年筆を奪うと、それを増月社長に差し出す。
それでも増月社長はそれを見ようとせず、私を見つめ続ける。
「社長!!」
「理性…」
理性?
「理性が…働かなかったからだ」
働かなかったから?
「それは…どういう意味…」
私がそう問いかけると同時に顔をそらし、どいてくれた増月社長。
黒井秘書の手から万年筆を取って、見ると
「俺の名前が入っている…。確かに…俺のだ。
助かった。仕事に戻れ…」
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