ヘップバーンに捧ぐ
先の騒動の後、電話対応に追われ
余計な事を考える事なく、
あっという間に定時を迎えた。

明日からは、御盆休みである。
このところ、疲れることが多かったから
今年の御盆休みはゆっくりひっそりしていよう。

そんな事を考えながら、
今日は時間がかかるけど
バスで帰ろうとエントランスを抜けた途端
肩を掴まれた。

『咲良、お疲れ。
今、帰り?だったら飯食いに行こうぜ!
久々の東京だからさ、だいぶ変わったよな?
なんか良いところしらねぇ?』

忘れてた。
こやつの存在。

「設楽さん、お疲れ様です。
あなたとご飯行く理由がないので
失礼します」

『待てよ!
お前変わったよな?どうしちゃったわけ?
俺たち、知らない仲じゃないじゃん。』

「もう、昔のことですよ?
今の今まで忘れました。失礼します」

『だから、待てって!
何で、俺がこっち戻って来たと思う?

お前が忘れらんねぇからだよ
もう一度、やり直そうなっ?』

「離して下さい!」

昨日も今日も
会社のエントランス付近で私は
何やってるんだろう。

『何やってるの!娘から離れなさい』

設楽の手を振り払ってくれたのは
紛れもなく母と父だった。
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