俺様Dr.に愛されすぎて
それから私は、院内を回り挨拶と営業を終え、次の営業先に行くべく建物内を歩いていた。
元彼女の出現には驚いたし、動揺や不安もある。けど、真木先生のひと言が安心感を与えてくれるんだ。
はっ!真木先生に担当交代の話するの忘れた!
またあとで改めて話せばいいか。
今日はとりあえずここは引き上げて、お昼食べて次のところ向かおうかな。
そう考えて病院の裏口に手をかけた、その時だった。
「沙織?」
突然呼ばれた名前に、手と足を止め振り返る。
どこかで聞いた気がする声のような、どこか思い出したくないような。そんな曖昧な予感を感じながら見れば、そこに立っていたのは、スーツを着たパーマがかかった茶髪の男性。
きっちりとネクタイを締めた彼の姿に、誰か一瞬考えて、けれどすぐ気づいた。
くりっとした二重の目に、口角をあげた、かわいらしい顔立ちをした男性……。
そう、もう5年も前に別れたきりだった元カレ、修二だった。
「えっ……修二!?」
驚きからつい大きな声を出してしまう私に彼は『やっぱり沙織だ』と言いたげに笑う。
「久しぶり!うわ、お前スーツなんて着ちゃって、変わったなー!」
「そっちこそ!スーツ着てパーマなんてかけて……ていうか、どうしてここに!?」
「今医薬品メーカーで働いててさ。ここ取引先なんだよ」
そう言いながら、首から下げた名札をみせる。そこには【真熊薬品(株) 営業担当・柳修二】と書かれている。
医薬品メーカー……そうだったんだ、全然知らなかった。これまで一度も見かけたこともなかったし。
まだあっけにとられていると、修二は腕時計をちらりと見て時刻を確認した。
「お前昼飯食った?」
「へ?まだだけど……」
「ならよかった!一緒に食おうぜ!よし、行こう!」
は、はぁ!?
ちょっと待って、のひと言も言う間もなく、その手は私の腕を引き歩き出した。