俺様Dr.に愛されすぎて



改めて見てみれば、彼女の顔にはすり傷ができており、髪もぼさぼさ。紺色のスーツのジャケットは背中が汚れてしまっている。



そういえば、受け止めたけどひっくり返った、って言ってたな。

人ひとりを受け止めるとなれば相当な重心がかかったはずだ。もしかしたら彼女も背中を怪我しているかもしれない。



『藤谷、お前も隣の診察室入れ。診てやる』

『えっ、あ!いえ!大丈夫です、私頑丈なので!』



頑丈、といえど無傷なわけもないだろう。けれど藤谷はえへへ、と笑ってあっさり断り『次の仕事があるから』と病院を去って行った。



結局おばあさんは軽い足の捻挫で済み、それ以外の箇所は傷ひとつなかった。藤谷のおかげだろう。

おばあさんも『あの子のおかげ』と涙ながらにお礼を言っていた。



……が。藤谷がじつは背骨を骨折していたと知ったのは一週間後のことだった。



『新和メディカルの藤谷さん、今週営業来られませんって。なんでもこの前の一件で背骨骨折しちゃったらしいですよ』

『は!?』



笑っていたけれど、絶対痛かった友達思う。

けれどきっとあの場で治療をしたり、ましてや骨折だなんて知られたら、おばあさんが自責の念にかられると思っての作り笑いだったのだろう。



……俺も医者なら、そこまで察してやるべきだったな。



彼女への印象に、新たな感情が加わった。

無理しやすい、我慢強い。そして、優しい。

自分の痛みより人の痛みを優先するほど。





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