俺様Dr.に愛されすぎて
「なに嬉しそうにしてるんだよ」
「べつにー?けどこれで踏ん切りついたでしょ。心置きなくニューヨークいけるし、よかったじゃん」
その言葉から、嬉しそうな理由に気が付いた。気が付いたうえで、俺は言葉を発する。
「俺、何度も言ってる通り向こうには行かないけど」
「えー?梓英語もペラペラだし技術もあるし、出世できるよ?行かなきゃもったいないって!」
菜々は駄々をこねるように俺の背中に抱きつく。
「なにより、私も一緒にいるし」
ぼそ、と呟くその声は、それまでの茶化した様子とは違うもの。
その声色から、彼女の言葉が本気なのだと感じさせられる。
「……菜々。離れろ」
その声に対して俺も向き合うように、真剣に言う。けれど、彼女は抱きつく手に力を込めた。
菜々と付き合っていたのは、もう何年も前のこと。
ニューヨークへの異動の話を断った俺に対し、彼女は『自分の力を試すチャンスだ』とそれを受けた。
距離が離れたって、つながっている心を信じていた。
けれど、お互い忙しくまともに連絡をとることもできなくなり……三カ月ぶりにした電話でふたりで出した答えは、別れることだった。
どちらが悪いわけでもない。嫌いになったわけでもない。
「この前のこと、本気だよ。より、戻そうよ。あの頃はお互い忙しかったから気持ちも離れちゃったけど……再会して、やっぱり好きだって思った。だからもう一度、やり直そうよ」
あの頃も今も、ふたりでニューヨークに行って働くということも選択肢のひとつだ。
けれどやっぱり、俺はそれを選べない。