俺様Dr.に愛されすぎて



「わかりました、大丈夫です。事情が事情ですし、仕方ないですよ。また今度埋め合わせしてくださいね」

『おい、沙織……』



なにかを言いかけた彼の声を遮るように、電話を切る。

目の前の永野くんは私の言葉だけで電話の内容を察したようで、なんとも言えない顔で私を見た。



「……あーあ、本当にドタキャンされちゃった」

「藤谷さん……」

「けど仕方ないよね、仕事だもん」



人の命につながる、大切な仕事。私より優先して当たり前で、それより私をなんてワガママを押し通そうとも思わない。

そう、仕方のないことなんだ。



「……それ、仕方ないって思ってる人の顔ですか?」



永野くんが目で示す先にある、ショーウィンドウ。

そこに映る自分を見れば、今すぐにでも泣き出しそうな顔をしていた。



「『仕方ない』で割り切れない気持ちがあってもいいんじゃないですか?さみしいのも、好きなら当たり前です」



そう言って永野くんは私の頭をよしよしと撫でた。その手の優しさと言葉に、目からはポロっと涙がこぼれてしまう。



仕方ない、仕事だもん。そんなこと、わかってる。

けどそれでも、どうしても簡単には割り切れないよ。

だって悲しい。



会えるんだ、と思っていた分だけ積もっていた嬉しさが、会いたい、と思っていた分だけ積もっていた寂しさに押しつぶされてしまう。

ワガママだってわかってる。

わかってるけど、つらいよ。悲しい、寂しい。



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