あなたのことは絶対に好きになれない!
「オ、オウスケくん⁉︎」

突然のことに、私は慌てて彼の身体を引き剥がす。


「ひ、人が見てるよっ!」

居酒屋から駅までの一本道。
時間もまだ早いし、当然人通りはそれなりにある訳で。

彼はすぐに離れてくれたけど、


「人がいなければいいんだ?」

「なっ⁉︎」

口元を釣り上げてそんなことを言ってきて。


「そ、その意地悪な言葉を言うために抱き締めたの⁉︎」

信じられない!
私は頬を膨らませながら、駅に向かって再び歩き始めるけど……。


「それは違う。抱き締めたかったから抱き締めた」

彼もすぐに私の隣に立ち、さらりとそう返してきた。

もう、何なの……彼の言動に振り回されっぱなし!

でも、それも嫌じゃない、なんて……。



「クミ」

歩きながら名前を呼ばれ、「何?」と隣の彼を見上げると。


「あ……」

彼の左手が、私の右手にするりと絡む。



「抱き締めるのはダメでも、手を繋ぐのはオッケーだったよな」


……手を繋ぐのは初めてじゃない。

でも、そんな風に〝決定事項〟みたいに言われると、ちょっと反抗したくもなる。


だけど。



「し、仕方ないなー」

そう答えて、私も右手に少しだけ力を込める。


私も、彼に触れたいと思ったから。
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