キミと初恋。
ーー卒業式 当日。


卒業生の先輩達は胸元に赤い花を付けて体育館へと入ってくる。

いつもは気崩したり、スカートを短くしたり、指定以外のセーターを中に着ているような先輩達なのに、今日だけは違った。今日だけはきっちりと制服を着ている。それが今日最後の学校なんだって事をまじまじと私達に知らせていた。

先生達の朝礼を終えた後、3年生はここで卒業式をするらしく先に体育館を後にした。その時、私はちらっと颯ちゃんの姿を見つけた。ほんのり茶色い頭が見えたかと思ったけど、それはすぐに見えなくなった。

私達は終業式を手短に済ませて、各々の教室に戻っていく。教室で最後のHRと通知表、冬休みの宿題の配布。


「ーーあっ、雪」


誰かがそう言った言葉が私の元にも届いて窓の外を見やる。ちらちらと降る雪はゆきというよりかすみ草を連想させた。

目立たなくて、華やかさもない、ただただふわふわと白いかすみ草。


“Baby's breath”


赤ちゃんの吐息。

または、愛する人の吐息。


……そんな風に和訳すると、なんだか地味な花も素敵に思えてくる。


『かすみ草って地味とか気軽に言うけどな、ブーケ作る時あれがないと纏めるの結構大変なんだぞ』


自分のこの名前が素敵だと思えるかどうかは自分の心持ち次第。全ては考え方と、捉え方。

そう思ったらずっと同じところばかりに目を向けてた自分の視野がぐーんと広がった気がした。

私はずっと足元ばかりを見てた。でも頭上では空が広がって、時々雨が降ったり雪が降ったり、晴れだったり曇りだったり。

前を向いてみれば輝かしい景色が広がっているかもしれないし、うしろを振り返ってみればそこには緑が茂っているかもしれない。


全ては捉え方と目の向け方。単に気づかなかっただけで、私が思っていた以上に世界はとても優しくて美しいのかもしれない。


私は先生の話を聞きながら、ちらつく雪を見て、こう思った。


颯ちゃん、卒業おめでとうーーって。


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