恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「言ったでしょ、仕事握ってんのは僕だって」
「え、」
「ああ、そこの意味はわかってなかった?」
ぐい、と強引に腰を抱かれた。
「ちょっ!」
「とりあえず外に出ようか、店員の目に触れるし」
身を固くしても彼はお構いなしで、私の上半身を抱え引きずるようにして外に連れ出された。
来た時にも通った庭園の石畳が、公道に出るまで十メートルほど続いている。
「いつもこんなことされてるんですか!」
「春日住建はね、今僕がいないと仕事にならないんだ。資材を扱うメーカーは他にもいくらでもある。新興住宅地のモデルタイプだけは契約通りに使ったとしても、それだけだ。施主に君の会社のカタログ見せなきゃ何一つ売れないよ」
「そんな、」
確かに、そうだ。
東屋さんはなんとでもなる、と言ったけど。
工務店と施主との間でカタログの露出が無ければ、この先はない。
「それだけじゃないよ。君のとこを使わないと言ったらどうなると思う? 彼の直属の上司に、彼に失礼な扱いを受けたから信用できないと言ったら?」
「東屋さんのせいじゃないです、お誘いを断ってるのは私です!」
「だからぁ。そんなの関係ないって。めんどくさいなあ。せっかく気を遣って綺麗なホテルまで用意してんのに、ワガママ言うならここのトイレでも僕はいいけど? トイレ行くか?」
「と、いれ、って……」
トイレ行くか?
と言った田倉さんの声は、急にトーンの下がった冷ややかなものだった。