恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
座敷を出て田倉さんを探す。
店を出ようとしているところを見つけて、すぐに声をかけた。
「一花ちゃん? もう出てきちゃったんだ?」
「えっ、すみません。田倉さんが出て行かれたから……」
「時間差にしとかないと気付かれちゃうだろ。まあいいや、じゃあさっさと行こうか」
田倉さんの手が、私の腰に伸びてくる。
その手が絡みつく前に、一歩後ろに下がって私はなんとか、笑ってみせた。
「あの! どこに?」
「ん? タクシーでちょっと行ったホテルの上階にね、いい雰囲気のバーがあるんだよ。君みたいな若い子はあまりそういう場所に行ったことないだろ?」
「あ、じゃあ。お開きになってから、東屋さんも一緒にぜひ、」
「ははっ、一花ちゃん」
田倉さんは相変わらず、今日私と布団の押し売りの話をしていた時と変わらない笑顔で言った。
「とぼけないで、わかってんでしょ? 僕の言ってる意味くらい」
ぴき、と作り笑いのまま、表情を動かせなくなった。
惚けたフリでの誤魔化しは効かない、上に、田倉さんはわかってるんだ。
私が嫌だろうがなんだろうが、田倉さんには関係ない。
こちらが強く出られないと、わかってる。
「そういうことでしたら、申し訳ありません」
「ん?」
「お付き合いできません」
心臓が緊張からどくどくと忙しなく跳ねて、冷や汗が出た。
本当に、大丈夫なのか。
わからないけど東屋さんは、なんとでもなるから、って言った。
それがどうか本当でありますようにと思ったけれど、田倉さんは笑みを崩さない。
「はは。彼が困るんじゃない?」
「あ、東屋さんは、無事に契約は終わったって言いました!」