恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
私の肩を抱く手が、痛いくらいに強い。
言葉が出なくなった私を見て笑う、底意地の悪い顔。
その顔が、突然ぎゅっと眉を寄せて歪んだ。
「いっ!」
田倉さんの手が同時に緩んで私の肩から離れ、驚く間もなく私はシャツの後ろ襟を何かに引っ張られる。
「うぇっ?!」
足がもつれて後ろに転びそうになり焦って手が宙をいたが、実際にはしっかりと抱き留められていて。
「言いませんでしたか。うちはこういう契約の取り方はしませんって」
片腕で背中を支えられ後ろに仰け反ったまま、視界の端に真っ直ぐ前を睨む東屋さんの横顔が見えた。
「東屋さ、」
ちらりと瞳が動いて私を捕らえた瞬間、戦慄く唇を噛み締める。
情けなさと安心感で、じんと瞼の奥が熱くなった。
自分でなんとか、したかった。
でも東屋さんが来てくれるってことも、信じてて。
「す、すみません私っ……、」
「あー、あー、あー。かっこいーねー、いいなあ若くて」
私の声を遮って、田倉さんが毒を吐く。
さっき東屋さんに捕まれた腕をわざとらしく痛そうに振りながら、じろりといやらしく歪んだ顔がこちらを向いた。
「僕も言わなかったっけ。いくら僕の直属の上司に取り入ったって無駄だって」
もうどこにも、私と楽しく話していた田倉さんは欠片も見当たらない。