恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
東屋さんは、田倉さんの言葉を否定しなかった。
だけど全然狼狽えている様子も見せず、私を立たせぽんと背中を叩く。
だから何か、策があるのかと思ったけれど。
「そうですね」
と、あっさりと田倉さんの言葉に頷いた。
「その通りです。俺は一企業のしがない一営業に過ぎませんので。
もっと地位や権力にでも恵まれた人間だったらよかったんですが、出来ることと言えば虎の威を借ることくらいです」
自分には、太刀打ちできる力はないと潔いくらいに認めながらも、悔しそうにも迷いがあるようにも見えない。
ただにっこりと、変わらない営業スマイルは私から見ててもよくわからなくて、わかったのは笑ってるけどすごく怒ってるということだった。
「ははっ、そうだろうね。でも無駄だって、虎なんか居なかっただろ。実際に現場で仕事握ってんのは俺なんだからさ」
「そのようです。長年この業界に居て実績もある貴方に逆らえる人は少ないようで」
「長い物には巻かれろっていうだろ。どこの会社だってさ、似たようなことやってんだよ。このご時世、」
「だから俺は、もうこんな取引なくなったって構わないんですけどね」
ひょい、と肩を竦めて 放たれたその言葉に、私も田倉さんも一瞬言葉を失った。
「一花差し出してまで得るような契約なら、いらないんですよ。社での評価が下がろうが実績に響こうが、そんなもんはなんとでもなりますから」