恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】



四月下旬。
入社してから、一か月が経った。


営業部に来て、一か月。
東屋さんに会って、一か月。


ふわふわ、花が飛ぶように綻ぶ横顔を見て、一か月。


窓の外を見れば抜けるような青空に薄桃色の花を満開に咲かせている大きな木が見える。


牡丹桜だ。
空の青と薄桃の花びらと、緑の若葉のコントラストが見る者の目を楽しませるが。
風に吹かれてはらはらと散るその花びらは、私の胸を軋ませる。


なんて、可愛らしい乙女な発想ではなく。
今私は明らかに、他人様の恋に勝手に感情移入して勝手に胸を痛めている。


なんでこんなに。
私が振られたわけでもないのに、しんどいんだろう。


お腹が痛くなるような、重苦しい何かがずっと身体の中心を陣取って動かない。
考えたら泣きそうになるから考えないようにしたいのに、なぜかあの日からことあるごとに東屋さんの顔が頭にちらつく。


一番最初に覚えた、あの綻ぶような横顔や、私をディスった時の伏し目がちの、微笑。


どうしていつも、印象深く記憶に残るのか今なら少し、わかる。


愛しいとか恋しいとか、そんな気持ちが溢れてて、私は今までそんな風に誰かを見つめる横顔に出会ったことがないからだ。


それなのに、どんなに想っても通じないことがあるなんて。
報われなかったのに、まだ気持ちは消えないなんて。


そんな、どうにもならないことがあっていいの?


蒸し返すつもりはないなんて言うけれど、東屋さんの中では何一つ終わっていないのに。


そう思い始めると、苦しいの次は少し腹も立ってくる。
そんなこんなで、ちっとも仕事に集中できやしなくて。

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