恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
具体的に何を言えば、糸ちゃんを黙らせることができるのかわからなかったせいかもしれない。


だって、何を言っても上げ足を取られるような気がして。


「もう糸井さんとは喋りません! いちいち給湯室にも来ないで!」

「ひっ、ひとちゃん!」


子供の喧嘩みたいな言い返し方しかできなかったのが悔やまれる。
けど、無理してあれこれ反論して、逆に不安を植え付けられるのはもう嫌だ。


半泣き顔の糸ちゃんを放置して、コーヒーを淹れるのも断念して私は給湯室を飛び出した。



カッと頭に血が昇ったままデスクに戻って、午後からコピーして綴じていく予定だった書類をがさっとまとめて手に取った。



周囲から『あれ、午後のコーヒーは?』みたいな目線が飛んでくるけれど、私のせいじゃない。
糸ちゃんのせいです。



「すみません、コピーと製本作業で席外します!」



とフロアの面々に聞こえるように鼻息荒く宣言して、コピー機に向かった。


東屋さんは、今日も外出中だ。
最近はいないことが多いなと寂しく思ってたけど、先月の東屋さんの営業成績を見て納得した。


業績が、すごく上がってる。
新規開拓だけでなく既存の取引先にも足しげく通った結果らしい。


らしいというのは、他の営業の人が話してるのを聞いたから。


本当ならすぐにも顔を見たい。
見て落ち着きたかったけれど。


お仕事頑張ってるのに、と思うと甘えたことは言えない。
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