恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
エレベーターまであと少し。
だというのに、いきなり腕を捕まえられ滅多に使われない非常階段の重い扉に押し込まれた。
「い、糸ちゃん?」
「ひとちゃん、泣かないで」
驚いて、泣き顔を隠すことも忘れていた。
涙でぼろぼろの私の顔を覗き込む糸ちゃんの手は、しっかりと私の左の手首を握っている。
カッと頭に血がのぼった。
私を心配するフリして、わざと不安になるような言葉ばかり向けてくるくせに。
「離して、大っキライ!」
「ひとちゃんごめん。やなことばっかり言ってごめん」
「なんで! わかってて言ってるんだやっぱり!」
手を振り払おうとしたけど、なんだかんだ糸ちゃんも男なのだ
少しもびくともしない。
「ごめん。でもそれで不安になったりすんのは、ひとちゃんもわかってるからじゃないの」
聞きたくない。
私を捕まえている手を、がつがつと空いた手で殴りつける。
お願い、早く解けて。
「誰が見てたって思うよ。西原さんが結婚するから、忘れるために、ひとちゃんなんだよ。そんな恋愛、見てらんないよ。俺、ひとちゃん好きだから」
突然の糸ちゃんの告白を、驚きはしても嬉しいなんて思えない。
ただ、わかってたことを突きつけられて、やっぱりそのことはショックだった。
「一目惚れだったんだよ、ほんとだよ」
「……わかってるよ」
涙が止まらない。
少しも解けない手のことはあきらめて、ぎゅっと拳を握って泣きながら糸ちゃんを睨んだ。
「え?」
「なかには、私のことそういう風に見てる人がいるってわかってる。可哀想な女って思ってる人が居ること知ってるよ」