恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
東屋さんに妥協されて付き合ってる女とか?
もしくは傷心に付け込んで取り入った女とか?
およそ親しくもない、ただ名前だけ知ってるような人たちに限って訳知り顔で言いたがるものだ。
「でもそんなことどうでもいい。東屋さんが私を大事にしてくれてるのはわかってるもん」
そう、それだけは揺るがない、信じてるもん。
「ひとちゃん……」
「……糸ちゃんの『好き』なんか信じない。好きだったら傷つけるようなこと言わない。私だったら、東屋さんが泣くくらいだったら、他の誰に向けてだって笑って欲しいって思うもん」
そう言うと、糸ちゃんはすごく、傷ついた顔をしたけれど。
彼が怯んだその隙に、私は靴の尖った先で脛を思いっきり蹴っ飛ばした。
「いっ!!」
顔を顰めて屈んだその時に、軽く腕を振れば、漸く拘束が解かれる。
「ひ、ひとちゃん……」
泣きそうな声を聞きながら、私は階段を駆け下りた。
一階まで立ち止まらずに、響く足音は一人分、私のものだけ。
みっともない泣き顔を誰にも見られないよう、俯いたまま会社を出て、駅までひたすら走った。