恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
舌先が触れ、逃げようとしても首の後ろを捕まえられ、喉が仰け反った。
上向く唇を蓋するみたいに塞がれて、絡みつかれ吸い上げられた舌を柔く甘噛みされる。
「んんっ、」
ぎゅう、と鞄の柄を握りしめた。
腰が抜けそうになって、くずおれる寸前、やっと解放されて後ずさる。
がしゃん、と玄関扉に背中をぶつけた。
見上げた東屋さんは、意地悪を満面に湛えて唇の間から小さく舌を覗かせている。
「犬に噛まれたと思って、忘れてよ」
「あずまやさ、」
ふん、とせせら笑った後、少し眉をひそませて怒ったような顔をする。
「じゃあね。彼氏によろしく」
そうして伸びた手が私の背後の玄関扉を押し開けて、私はぽいっと放り出されてしまった。
呆然と、閉まった扉を凝視した。
容赦なく、ガシャンと鍵の音までした。
つ、冷たい。
けど、キスはすごく、熱、くて。
足音が聞こえた。
慌てて背筋を伸ばすと、顔を伏せながら足早に廊下を抜ける。
すれ違った人の来た方角にエレベーターホールがあった。
そこそこ大きなマンションのようだけれど。
今は、唇に残されたキスの記憶に頭を支配されて何も考えられない。
ただ、たまたま停止していたエレベーターに乗り、マンションを出るなら普通に一階だろうと指が勝手にボタンを押した。
何階だったんだろう、それすら確認する余裕もないままで、エレベーターは一階に辿り着く。
エントランスを抜けて深呼吸すると、まるで脱出困難な迷路を抜けたあとのような脱力感があってへなへなとその場にしゃがみ込んだ。