恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「端からお試しでってことだったんだし。お試しにしといて良かったわ、俺も」
がさ、がさ、とスーパーの袋が風で揺れた。
それを見下ろしているうちに、乱暴な足音が遠ざかり階段を駆け下りていくのがわかった。
今まで付き合った人たちは、みんな。
ラインで一言で済まされたままブロックされたり、電話で一言で終わりだったり。
あんな、腹が立つばかりの別れ方はしまいと、思っていたのだけど。
綺麗な別れなんて、不可能だったんだ。
そんなのは、心変わりを許してくれと相手に押し付けているようなものだ。
「……あの、大丈夫?」
ぼんやりと立ち尽くしているのを心配して、隣のお姉さんが声をかけてくれて。
それで漸く、我に返った。
「大丈夫です。うるさくしてすみません」
「あんまり揉めそうだったら警察呼ぼうかと思って様子見てただけ。……ごめん話聞いちゃって」
「はは……いえ」
チェーンをかけたままの半開きのドアから、少しだけ顔を覗かせているお姉さんに改めてお辞儀をすると、足元のビニール袋を拾い上げた。
重い重い、と彼は言っていたけれど、対して重いものでもなかった。
やっと鍵を空けて部屋に入ると、どっと疲労感があふれ出る。
冷蔵庫の前でビニール袋の中を取り出そうとして。
驚いて、手が止まった。
そして唇を噛み締めて、ぐっと溢れそうになる涙を堪える。
買い過ぎた、と言っていた。
大きな袋にたくさん、私が好きなお菓子ばかり入っていた。