社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜

「何って、一緒にゲームするだけじゃあ物足りないんでしょ?」

「え、いや、それは……」

どうやらあの質問を聞いていたらしい彼は、不敵な笑みを浮かべて私を見下ろしている。


「する? 恋人じゃないと出来ない大人なこと」

「え、いや、待って!そんな事が言いたかったんじゃない……こともないけど、そんな急に言われても心の準備が……!」

必死でぶんぶんと顔を横に振り、彼の胸元を押す。しかし、そんな抵抗も彼には全く聞いていないのか、彼の右手がついに私の首筋に触れた。

首筋から後頭部に指先が流れると、彼は私の髪を撫でるようにしながら顔を近づけてきた。

反射的にぎゅっと目を瞑ると、彼の吐息を感じるのにそこから先は何も変わらない。唇には、何も触れてこなかった。


「……期待したでしょ」

ゆっくり瞼を開くと、今にも触れてしまいそうな距離にある彼の口角がくっと意地悪く上がった。

不覚にも、そんな彼の笑顔にさえドキッとしてしまうのだから、完全私の心臓は恋の病とやらに侵されているらしい。


「今、真樹が茅ヶ崎よりかっこよく見えた……かもしれない」

ふとそんなことを思って、それをつい言葉にして漏らしてしまった。

ゲームの推しキャラよりもかっこよく見えたのは恋のせいで起こった錯覚かもしれないけれど、これは私にとって最大級の褒め言葉だ。


「その推しよりももっとドキドキするような事、今からたくさんしてあげるから」

私の褒め言葉が効いたのか効かなかったのか、彼はそう言って笑みを浮かべると、私の首筋に唇を落とした───。



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