社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「お先に失礼します」
18時過ぎ。立ち上がった私が遠慮がちにそう発すると、隣の席の島田さんをはじめ数人が「お疲れ様です」と返事を返した。
いつもと変わらないオフィスを背に階段を下り、出口に向かう。正面出入り口まであと少し、というところまでやってくると、受付に藤田さんを見かけた。
ふわふわとしたウェーブのかかったボブヘアーに、誰から見たって可愛いビジュアル。小物はいつも女の子らしくピンクで揃えられているし、声だって、話し方だって可愛い。
私だって、出来ることならあんな子になりたかなったな。なんて、考えていると、ばちりと藤田さんと目があった。
「あ、」
つい、小さく声を漏らした私は軽く彼女に会釈をすると、いつの間に止まっていた足を再び進めた。
「あ!待って、河合さん!」
「え?」
藤田さんが、何故か足を進めた私を呼び止めた。すると、私に向かって一直線に駆け寄ってくる。
一体なんだ。特に関わりがあるわけでも、たくさん話したことがあるわけでもない彼女にどうして私は呼び止められたのだろう。
予測できなかった展開に驚き、混乱していると、あっという間に私の目の前へとやって来た藤田さん。
私は、きょとんと彼女を見つめているだけ。すると、私より数センチ背の低い彼女の方が少し上目づかいをしながら口を開いた。