社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
今になって知る事実に私は、足の力が抜けてしまいそうなくらい安心してしまった。
てっきり、もう二人はその後も二人でご飯を食べたりしてデートを重ねていたりするかもしれない、なんてそんな可能性も考えていたのに。
「さーて、俺の身の潔白は晴らせたけど、逆に美帆の方は不利になったんじゃない?」
「うっ……でも、何もないってば。清水とも、茅ヶ崎くんとも」
「そうだとしても、向こうは美帆のことが好きなんでしょ? 清水はもともと知ってたけど、茅ヶ崎もそうらしいじゃん。それなのに何の危機感も持たずに楽しそうに話してさ」
それでこんな噂までたって、と付け足した彼はかなりご立腹の様子だ。
謝りたいのに、悔しくて謝れない。
謝ってしまえば、あの、ゲームの為だけに作り上げられた掟だけが私たちの繋がりだと思い知らされるみたいで嫌だった。
ぎゅっと唇を噤んで、視線を足元に落とす。すると、彼の指先が私の顎に移り、視線がまた彼の方へと戻された。
段々と近づく彼の顔が、気づけばもう私のすぐ目の前にやって来ていた。ハッとしたその時にはもう彼の唇が私の唇に触れていて、私はあの夜のことを思い出した。
「……ちゃんと俺のものだって自覚してくれないと困る。まだ、俺の彼女なんだからさ」
そう言って複雑に笑った彼の表情と、意味深な〝まだ〟という言葉。それから、触れた唇の感触に、私の瞼からは熱いものが込み上げてきた。