二人だけの秘密



『4月28日《月》午後4時10分』




終礼のチャイムが、学校全体に鳴り響く。

「みんな、気を付けて帰って下さい」

担任の佐藤先生が心配そうに言うと、生徒たちは教室から出て行く。

「美希、一緒に帰ろう」

隣のクラスの工藤友梨が、僕たちのクラスに入ってきて美希に声をかけた。

「ごめん、友梨。今日は、無理」

美希が、雪のような白い手を合わせて辛そうに謝った。

「またぁ」

それを聞いた友梨が、怪訝そうな顔をする。

「それに今日は無理じゃなくて、今日も無理でしょ。美希」

友梨がどうでもいいことを指摘し、目を細めて美希を見る。

「ははは」

美希が、乾いた笑い声を上げる。

ーーーーーー美希は、今日も仕事なのだ。友達と一緒に帰ることを我慢し、好きな人と一緒に帰ることを我慢してこの仕事をしている。

ーーーーーーなんのために?

僕の心は、複雑に揺れた。

< 63 / 206 >

この作品をシェア

pagetop